AIエージェントの台頭を背景に、ソフトウェア市場では「SaaS is Dead?」をはじめとするアプリケーション市場の終焉論が各所で語られるようになっています。しかし、日本のソフトウェア市場は今、一世代に一度の成長サイクルへと踏み出そうとしています。
IDCの最新調査「Worldwide Semiannual Software Tracker, 2025H2(2026年5月発行)」は、2030年までに国内ソフトウェア市場が20兆円規模に達すると示しています。この成長は漸進的な量的拡大ではなく、あらゆるソフトウェアセグメントにわたるAIネイティブソフトウェアへの構造的転換が原動力です。
「市場は縮小しない、変革する—そして変革こそが成長の源泉となる」
数年おきに、特定のソフトウェアカテゴリが終焉を迎えるという言説が繰り返されてきました。かつてはオンプレミス、次いで企業向けIT、そして今やSaaSが「時代遅れ」の槍玉に挙がっています。その根拠は単純です——AIエージェントがあらゆる業務を自動化できるなら、多層的なアプリケーションにコストをかけ続ける意義はどこにあるのか、というものです。
IDCの最新データは、この問いに明確な答えを示しています。ソフトウェアはAIによって陳腐化するのではなく、AIによって根本から作り直されているのです。そしてこの転換は、多くの関係者が想定していたよりもはるかに速いペースで進行しています。
実際、2025年末時点で日本企業の50%以上がすでに生成AIを本格導入しており、PoC段階を含めると90%以上が何らかの形で活用しています。AIエージェントについても、40%超の企業でパイロットまたは本番環境での運用が始まっています。IDCはこの現状こそが、今後5年間の成長を測る出発点になると見ています。
「3つのセグメント、1つの共通エンジン」
IDCは国内ソフトウェア市場を3つの主要セグメントに分類して予測しています。いずれのセグメントでもAIによる再編が進行中ですが、成長の速度や性質にはセグメントごとに明確な差異が見られます。


出典:Worldwide Semiannual Software Tracker 2025H2, IDC Japan, June 2026
「際立つ存在:AIコアソフトウェア市場」
アプリケーション開発/デプロイメント市場の中に、特筆すべき市場があります。生成AIファウンデーションモデルやAIエージェントを含む「AIコアソフトウェア市場」は、予測型AI、生成AI、エージェンティックAIの導入進行によって大きく成長すると予測しています。
これが、アプリケーション開発/デプロイメント市場全体のCAGRを51.7%へと押し上げている主要因です。AIは既存のソフトウェアカテゴリを単に強化しているのではなく、5年前には存在しなかったまったく新たなカテゴリそのものを創出しています。
「着実な拡大:アプリケーション市場とシステムインフラストラクチャ市場」
アプリケーション市場はCAGR 9.2%という堅実なペースで成長を続け、2030年までに4兆2,223億円に達すると予測されています。これは成長の鈍化ではなく、既存レイヤーが「置き換え」ではなく「AIへのアップグレード」として進化していることを示しています。アプリケーションベンダー各社はAI/エージェント機能を製品に組み込み差別化を図っていますが、ソフトウェアをゼロから再構築しているわけではありません。
システムインフラストラクチャソフトウェア市場も同様の傾向を示しています。CAGR 9.5%での拡大は、切実なオペレーション上の課題が牽引しています。セキュリティ領域でのAI活用、AIOps、そして自律型エージェントによるITシステム管理は、セキュリティ、ITオペレーション分野での人材不足が深刻化する中、もはや選択肢ではなく必要不可欠な手段となりつつあります。
「IDC最新データが示す示唆」
ベンダーにとって、問いの中心はすでに「AIを取り入れるべきか」から「どこまで深く組み込むか」へと移っています。表層的なAI統合はすでに標準化されつつあり、先行するプレイヤーはAIを段階的な機能追加としてではなく、製品そのものの抜本的な再設計として捉えています。
ITバイヤーにとっては、明確な近道を示しています。AI対応アプリケーションの採用は、カスタムビルドソフトウェアの完成を待つよりもはるかに早く価値創出を実現します。すでにAIを本番環境で稼働させている企業と、まだ計画段階にとどまる企業との差は、着実に開き続けています。
「SaaSは終わった」という言説は、現実を見誤っています。終焉の圧力にさらされているのは、静的でAIへの対応を怠ったソフトウェアです。一方、AIネイティブソフトウェアは成長を続けており、エージェント中心の世界に向けて設計され、前世代のツールには不可能だった形で市場を切り拓いています。日本のソフトウェア市場が2030年に20兆円規模に達するという予測は、過去の成長サイクルの単純な繰り返しではありません。IDCはこれを、業界そのものが根底から姿を変えていることを告げる構造的なシグナルと捉えています。
出典:IDC Japan、Worldwide Semiannual Software Tracker 2025H2、2026年5月発行
関連する調査やご相談について
より詳細なインサイトや市場動向については、当社アナリストへお気軽にご相談ください。