Markets and Trends March 11, 2026 2 min

IDC Point of View:中東における戦争が地域および世界のIT支出へ与える影響~初期段階における見通し

中東での紛争激化は、すでに脆弱さを抱える世界のテクノロジー環境に対し、新たなマクロ経済・地政学的な変動要因をもたらします。

IDCは政治的な力学についてコメントしませんが、テクノロジー産業への影響は即時的で、定量的にも捉えられるものです。初期の地域インテリジェンスとIDCのマクロ経済モデリング・フレームワークに基づき、IDCはIT支出に対する主な影響要因を次の6つのベクトルとして整理します。エネルギー価格の変動、クラウドおよびデータセンターのレジリエンス(回復力)、ソブリン(主権)インフラの加速、サイバーセキュリティ、サプライチェーン、消費者および企業の投資心理の変化です。

本件は初期段階で急速に状況が変化しているため、IDCのシナリオ分析と予測は、中東に限定された戦争が3か月未満で終結するケースに主眼を置いています。現時点では、より長期に及ぶ場合のシナリオデータは公表しません。今後も状況を注視し、長期化の蓋然性がより明確かつ重要になった段階で、追加の分析を検討します。

紛争が最大3か月続く場合の「下振れシナリオ」では、IT支出への影響は測定可能である一方、相対的には中程度にとどまる見込みです。マクロ環境が弱含む局面でも、サービスプロバイダーはグローバル規模でのAIインフラ投資を引き続き積極的に維持する可能性が高いとIDCは見ています。短期の戦争は、クラウドサービスやエンタープライズソフトウェア需要への直接的影響は限定的ですが、再燃するインフレ圧力によってデバイスの更新(買い替え)や裁量的支出にブレーキがかかり得ます。
この下振れシナリオでは、2026年の世界IT支出成長率は、IDCのベースライン予測である約10%成長に対して、約9%成長に低下すると見込みます。戦争が長期化した場合は影響がより顕著になる可能性がありますが、現時点では予見が難しい状況です。
中東・アフリカ(MEA)地域のIT支出は2025年に1,550億米ドル(世界市場の4%)で、2026年は5%増が予測されています。これは、同地域のIT支出におけるデバイス比率が相対的に高く、メモリ価格上昇圧力の影響を受けやすいことから、世界平均より低い伸びとなっています。

紛争が3か月以内に収束する場合の「下振れシナリオ」では、MEAのIT支出成長率は2026年に3~4%へ低下し、短期的に企業・投資家心理へマイナスの含意が生じ得ます。国別の影響は、原油供給の力学などにより極めてまちまちとなる見通しです。長期化すれば影響はより大きくなります。

ただしIDCは現時点で、紛争は短期に終わり、混乱度合いも比較的低いというベースラインの前提を維持しています。AIインフラ展開、クラウド移行、継続中のデジタルトランスフォーメーション(DX)といった基礎的需要への影響は限定的である、という想定です。IDCは状況の進展に合わせて、継続的にモニタリング、およびアップデートを行う予定です。
以下は、IDCによる中東および世界のIT支出に関する短期~中期の構造化評価です。

原文:2026年3月2日公開(英語)|日本語版監修: 寄藤 幸治

1. エネルギー価格ショック:最も主要な波及メカニズム

紛争激化の直後、原油価格は7~8%上昇し、ブレント原油は70~80米ドルレンジへ向かいました。IDCのIT支出モデルでは原油価格のベースライン平均を65~75米ドルとしています。IDCのモデルは、3か月の紛争を前提に平均原油価格が75~85米ドルへ上昇すると想定し、さらに長期化した場合は100米ドル前後、またはそれ以上へ近づく可能性があると見ています。

供給側の懸念を増幅させているのが、アラムコの製油所生産停止で、報道ベースでは日量約50万バレルに影響が出ています。またカタール・エナジーは一時的にガス生産を停止し、欧州のガス価格は40~50%高となりました。戦争が長期化すれば、中東からのガス・石油への依存度が高い国々(日本を含むアジアにも波及し得ます)で投入コストが大きく上昇します。

エネルギー価格の変動は、2026年のIT支出前提に影響する最重要のマクロ波及経路です。エネルギー価格の上昇は新たなインフレ圧力を生み、中央銀行の金融政策にも大きな影響を及ぼす可能性があります。近年の高インフレ局面を経て、企業・消費者の信頼感は依然として脆弱である一方、IT製品もメモリ部材不足によるインフレ圧力を抱えています。価格上昇は、支出の先送りや配分見直しにつながり得ます。

IT支出への影響

グローバル(世界)
• エネルギー価格高は、データセンター運用、半導体製造(ファブ)、物流、製造のコストを押し上げます。
• インフレが長引けば利下げが遅れ、企業ITプロジェクトの資金調達環境がタイト化し、IT購買に対する企業・消費者心理も悪化し得ます。
• 投入コスト上昇により、AIやDX施策の優先順位見直しが起こり得ます。

中東地域
• 紛争長期化と防衛支出の増加が、原油高による余剰収入を相殺し、テクノロジー投資を先送りする可能性があります。
• 事業継続、サイバーセキュリティ強化、ソブリン(主権)インフラ導入など必須領域への支出が優先されます。
• 湾岸の富裕国では政府主導のDXプログラムが維持され得る一方、他国では優先順位の見直しが起こり得ます。

2. クラウド&データセンターのレジリエンスが戦略課題に

今回の戦争は、主要クラウド事業者のリージョンおよびアベイラビリティゾーン(AZ)が現実の戦闘地域で稼働するという、初めての事例となります。紛争初期に、あるグローバルクラウド事業者の複数AZにまたがる施設が相次いで攻撃を受けたことで、アーキテクチャのレジリエンスが示される一方、長期的紛争局面におけるクラウド環境の脆弱性も浮き彫りになりました。IDCは、クラウド、ストレージ、データセンター・アーキテクチャへの投資が優先事項になると見ています。ただし、データセンター建設は資本集約的で年単位の取り組みであり、建設費や資金調達コストの上昇、サプライチェーン摩擦が、実行のスケジュールを遅らせる可能性があります。

構造変化

• パブリッククラウドを利用する企業およびSaaS事業者にとって、マルチAZが最低限の標準となり、マルチリージョンはベストプラクティスとなります。
• 多国籍企業のクラウド配置におけるリスクモデリングは、国単位から、より広域のレジリエンスの枠組みへ拡張されます。

中東への影響

IDCでは以下のような影響が表れるものとみています。

• 冗長性を有する、自国資本のソブリンクラウドおよび国内データセンター投資の加速
• ハイパースケーラー(大手クラウド事業者)による、物理分離を伴うマルチAZ構成(例:単一AZから3-AZ設計へ)へのコミット強化

世界への影響

今回の事象は、以下のような事項に関する期待値の見直しを迫ります。

• クラウドのリカバリープランニング
• レジリエントなデータセンター基盤
• 地理的分散戦略
• インフラ投資判断に織り込まれるリスクプレミアム

長期的にはクラウド投資が増える可能性がある一方で、短期的には企業がアーキテクチャを再評価する中で、プロジェクトの進捗が遅れる場合があります。

3. ソブリン(主権)インフラと「戦略的自律性」

デジタル主権は、湾岸地域の各国が組織と市民のデジタル自己決定を重視する中で、この地域におけるクラウド戦略の主要潮流として、すでに定着しつつありました。紛争の初期段階においても、湾岸の政府、とりわけ資本余力のある国々は、俊敏性、レジリエンス、長期的な持続性を強化するため、ソブリン・デジタルインフラや分散クラウドモデルへの投資を加速する可能性があります。焦点は以下です。

• ソブリンクラウド・プラットフォーム
• 国家レベルのパブリックAIインフラ
• 政府機関によるサイバーセキュリティ強化と対応実務

各国は、より広い「戦略的自律性」への動きと整合する、重要インフラのレジリエンス・モデルの構築にも注力し、海外インフラ事業者への過度な依存を低減しようとします。代表的なモデルは次の通りです。

• Shared public:インフラ共有、運用はグローバル
• Dedicated public:占有リージョン、運用はローカルパートナーと共有
• National public:ローカルのクラウド事業者が保有、運用
• Managed private:顧客向けに事業者がホストし、事業者が管理
• Air-gapped private:分離(エアギャップ)された環境を顧客が運用

ただし財政要因は重要です。紛争初期だけでも数十億規模と推定される軍事支出は、予算配分のトレードオフを生みます。紛争期間が、ソブリンIT投資の加速を決めるのか、一時的な優先順位変更に留まるのかを左右します。

4. サプライチェーン:メモリ供給、スマート兵器、半導体への圧力

中東は、エネルギーの動脈であると同時に、物流・積み替え(トランシップ)拠点として、グローバル・テクノロジーサプライチェーンで重要な役割を果たしています。ホルムズ海峡の閉鎖、あるいは持続的な混乱は、頻度は低いものの影響が極めて大きいショックとなり、世界のIT市場へ実質的な影響をもたらし得ます。

ホルムズ海峡は、世界の原油輸送の約20%と、相当量のLNG(液化天然ガス)輸送を担います。同海峡が混乱した場合の最も即時的な影響は、エネルギーコスト増を通じて、欧州やアジア(日本を含む)におけるガス価格上昇、データセンター運用費増、半導体製造のエネルギーコスト増を招くことです。また、物流面では、保険料・航空/海上輸送費の上昇、消費者向けテクノロジーの組立・流通に向かう部材の遅延、アフリカや欧州の一部地域への出荷の停滞が見込まれます。

同海峡は、Jebel Ali(UAE)、Dammam(サウジアラビア)、Hamad Port(カタール)など湾岸主要港を支える航路でもあり、アフリカ、南アジア、欧州の一部地域への再輸出における重要ノードです(テクノロジー製品・部材を含む)。

世界のメモリ市場は、紛争激化以前から逼迫していました。本紛争は、タイトな需給環境をさらに悪化させ、世界のITハードウェア・エコシステムに波及し得ます。レノボのサウジアラビアでの製造拡張のような生産地域化の動きは、中東がグローバル・テックサプライチェーンで存在感を増していることを示しています。

主なリスクは次の通りです。

• 湾岸航路を通る物流の混乱
• 新たな製造ハブ立ち上げの遅延
• 保険・運賃コストの上昇

紛争が長期化すると、スマート弾薬やドローンシステムで先端半導体・メモリの軍事用途消費が急増し、国家安全保障の観点から半導体供給確保に向けた追加の国家介入が起こり得ます。これはDRAM/NAND価格、AIアクセラレータのメモリ構成、エンタープライズストレージ基盤コストに上押し圧力となり、AI導入を計画する企業がプロジェクト順序を見直す要因になり得ます。消費者デバイス価格もリスクに晒されます。

全体への影響は、戦争の期間と地理的な封じ込めに左右されます。数週間で収束すれば短期混乱の後に迅速な回復が見込まれますが、長期化すると地域・世界の市場条件により深刻な影響を及ぼします。

5. サイバーセキュリティ:即時の緊張上昇と構造的な支出増

地政学的な紛争は、サイバーリスクを実質的に高めます。国家支援や代理勢力によるサイバー活動は、軍事的緊張の高まりとともに増えることが多く、主な標的は以下です。

• エネルギーインフラ
• 金融サービス
• 通信
• 政府システム
• クラウド基盤およびSaaSプロバイダー

中東は高度持続的脅威(APT)の焦点地域であり、エスカレーションは攻撃頻度と高度化の両面を押し上げます。

直近のIT支出への影響

1)セキュリティ予算の加速
不確実性が高い局面でも、セキュリティは削減されにくい予算の一つであり、この文脈では増加する可能性が高いと考えられます。企業・政府は次の領域で支出を増やすでしょう。

• マネージド検知・対応(MDR)
• セキュリティオペレーションセンター(SOC)のモダナイゼーション
• ゼロトラスト・アーキテクチャ
• エンドポイント検知・対応(EDR)
• クラウドワークロード保護
• ID/アクセス管理(IAM)

2)インフラの堅牢化
重要インフラ事業者(エネルギー、公益、輸送)は次へ投資を増やします。

• OT(制御/運用技術)セキュリティ
• ネットワーク分離(セグメンテーション)
• エアギャップ型復旧環境
• バックアップ/サイバー復旧用ボールト

3)クラウドセキュリティの引き上げ
クラウドが戦略的標的になるにつれ、企業は次を進めます。

• CSPM(クラウドセキュリティポスチャ管理)への投資拡大
• マルチリージョンバックアップ戦略の拡充
• ハイパースケーラーに対し、レジリエンスやインシデント対応に関する透明性向上を要求

地域別の影響

中東

• 政府主導のサイバーセキュリティ・プログラムは拡大
• ソブリンなサイバー防衛能力への追加予算
• サイバーレジリエンスが国家DXに組み込まれる

世界

• 他地域に展開している多国籍企業は防衛投資を拡大
• サイバー保険コストが上昇し、リスク低減投資を後押し
• 防衛関連のサイバーセキュリティ/セキュア通信市場が成長

マクロ環境が弱含み、経済成長が鈍化しても、サイバーセキュリティは相対的に成長する領域となり得ます。紛争長期化のシナリオでも、セキュリティ投資は比較的底堅いと見込まれます。

6. 消費者向けテクノロジー支出と心理

消費者向けIT支出は、インフレの長期化とメモリ起因のデバイスコスト上昇で、すでに圧力を受けていました。紛争激化はこれに以下を上乗せします。

• 消費者心理の悪化(消費者信頼感は依然として脆弱)
• 投入コスト増によるデバイス価格上昇
• サプライチェーン混乱リスク

中東はJebel Aliなどを通じた積み替え拠点でもあるため、中東域内に加え、アフリカや欧州への物流にも波及します。供給網の混乱は、地域内外でPC、スマートフォン、各種デバイスの供給に影響する可能性があります。

また、高級不動産や観光といったエンターテインメントや高級品にかかわる産業では支出が一時停止し、関連する企業IT投資にも間接的影響が及び得ます。

中東域外でも、脆弱な消費者支出は、大幅または長期の価格上昇に耐えにくい状況です。エネルギーコスト上昇は、PC・タブレット・スマートフォン等の購入先送りを促す可能性があります。これらのカテゴリはメモリ供給不足によってすでに価格上昇が進んでおり、消費者が買い替えを待つ傾向をさらに強めるでしょう。

IT支出・投資への影響(IMPACT ON IT SPENDING & INVESTMENT)

AI投資:加速か、一時停止か?

投入コスト上昇とマクロ不確実性が、特に紛争長期化の場合、一部企業にAIの本番展開を再検討させる可能性があります。消費者心理と同様に、企業心理も依然として脆弱で不確実です。実体経済の減速が見え始めれば、短期的にプロジェクトの延期や縮小が起こり得ます。

一方で、ROIが実証され、測定可能な成果が迅速に効率改善をもたらす領域では、マクロでの逆風への対応としてAIがより積極的に導入される場合もあります。IDCの調査では、マクロ圧力への戦術的対応としてITを活用しようとする組織が増えている傾向が一貫して見られます。これは、外部環境の軟化兆候が見えた際に、IT支出削減が最優先の対応となりがちだった過去の景気後退局面とは異なる変化です。

総じて、比較的短期の紛争は多くの組織のAI/IT支出計画を大きく崩す可能性は高くありません。基礎需要は強く、近年の関税や他の地政学的対立といった外部ショックに対してもレジリエンスを示してきました。AIは引き続き優先度が高く、2026年はビジネスインパクトを高めるためのスケール展開が焦点となります。

最大のリスクは、紛争が長期化し、インフレ圧力とサプライチェーン混乱で資本・リソース制約が強まるケースです。AI支出は他投資より底堅い可能性がある一方で、最悪シナリオでは免疫ではありません。

相反する2つの力学

抑制要因(Constraining Forces)

• インフラコスト上昇
• 資金調達環境のタイト化
• メモリ不足

加速要因(Accelerating Forces)

• サイバーセキュリティ需要の増加
• 防衛関連のAI/アナリティクス投資
• 湾岸諸国におけるソブリンAI構想

どのような影響を受けるかは地域で異なります。

• 湾岸諸国:国家主導のAI投資が継続する可能性
• 欧州・アジア(日本を含む):マクロへの感応度がより高い可能性
• グローバル企業:ROI精査がより厳格化

IT支出の3シナリオ見通し(Three-Scenario Outlook for IT Spending)

IDCのIT支出予測は、最新のマクロ経済・業界データを反映し毎月更新されます。この月次予測には、テクノロジー市場と経済条件の変化に対する感応度の歴史的相関に基づくシナリオが含まれます。

直近のベースライン予測は2月27日に公表され、原油価格やサプライチェーン要因の一定の変動をすでに織り込んでいます。今回IDCは、地域紛争が最大3か月続く(シナリオ1)または2026年の大半まで続く(シナリオ2)場合の影響を評価するため、2つの新シナリオを作成しました。

数週間で収束する短期の混乱はあり得るものの、IDCは現時点で、2月27日時点の「Black Book」予測(※IDCの月次予測)を改定する計画はありません。短期で収束すれば、より速い反発と年内の投資・プロジェクト再開が見込まれるためです。状況は流動的であり、次回の定例予測リリースである3月30日までに、ベースライン前提が変わる可能性があります。

2つのシナリオのうち、より可能性が高いのは3か月以内に収束するケースです。この「数か月」続くケースでは、IT支出により明確な影響が出て、年間成長率が約1.0ポイント下押しされる可能性があります。影響の大半は、デバイスと裁量的プロジェクト支出に集中します。他の外部要因がない限り、サービスプロバイダーがAI投資計画を大きく縮小するとはIDCは見ていません。

2000年代初頭のイラク戦争など過去の軍事衝突と比べ、IT産業は過去20年で大きく変化しました。企業IT支出におけるOPEX(運用費)・サブスクリプション比率が高まり、インフラ投資のより大きな部分がサービスプロバイダー側に集中しています。

企業IT支出に対する主要リスクは、政治そのものではなくマクロ経済要因であり、とりわけ原油高の長期化が企業・消費支出と金融政策の両面に影響する点です。紛争が3か月を超えるシナリオ2では、ITプロジェクトやデバイス更新の先送りが増え、IT支出への影響は1.0ポイント超となる可能性があります。

MEAでは影響はより複雑で、政治動向の不確実性も相まって変動しやすい見通しです。ただし、地域のAI戦略投資は継続する可能性が高く、下振れ影響は主に企業・消費支出の先送りに集中するとIDCは見ています。

IDCのMEAにおける2026年ベースライン(5%成長)は、シナリオ1(数か月継続)では3~4%に低下し得ます。スマートフォン市場はメモリ価格上昇の影響もあり、もともと減少が見込まれていましたが、改善前に一段と悪化する可能性があります。スマートフォンはMEAのIT支出に占める比率が相対的に高く、これが2026年の地域成長率を押し下げる要因となります。

ただし、最悪シナリオで3か月を超えて長期化しても、地域のクラウド/AI導入の基礎需要は強く、状況が落ち着けば比較的速く回復する可能性があります。

3つのシナリオ(要約)

ベースライン:紛争が封じ込められる(数週間)

• 一時的な原油スパイク
• 地域プロジェクトの軽微な停滞
• 世界IT成長見通しの修正は最小限

シナリオ1:地域不安定が継続(3か月未満)

• 原油は85~95米ドルで推移
• インフレ圧力により世界IT成長は0.5~1.0ポイント下押し
• ソブリンクラウド構築が加速
• 消費者向けデバイス回復が鈍化

シナリオ2:エスカレーションとエネルギーショック(6~9か月)

• 原油は100米ドル超
• 金利正常化が遅延
• 消費者需要が大幅に縮小
• 企業はレジリエンス/サイバー/重要インフラへ再配分
• とりわけMEAでIT支出への影響がより顕著

IDCの戦略的見解(IDC’s Strategic View)

中東での戦争は単なる地域の地政学イベントではなく、デジタル経済のエネルギー依存、インフラのレジリエンス、サプライチェーンに対する構造的な試験といえます。

IDCが注視する主要テーマは以下です。

• エネルギー価格の持続性とインフレ軌道
• クラウド基盤リスクの再評価と冗長化投資
• 防衛需要と連動するメモリ市場の逼迫
• 防衛とDXの間で生じる政府財政のトレードオフ
• 消費者心理の変化とデバイス需要の価格弾力性

中東が直接の影響を受ける一方で、世界のIT産業も、エネルギーコスト、半導体供給、資本配分判断を通じて二次的影響を被ります。

短期的には、企業の意思決定は慎重姿勢とシナリオプランニングが中心となるでしょう。中期的には、本紛争が、ソブリンインフラ、サイバーセキュリティ、マルチリージョンのクラウドレジリエンスといった構造的投資を加速させる可能性があります。

IDCは、経済前提の変化に応じて支出見通しを精緻化し続けます。IT支出予測は、最新の市場データと動向を反映し、毎月月末の最終営業日に公表しています。今後数日~数週間のデータを注意深くモニタリングしていきます。

エグゼクティブサマリー(Executive Summary)

• 紛争激化は脆弱な世界のIT環境に新たなマクロ/地政学変数を追加する。IDCは政治ではなく、測定可能なテック市場への影響に注目
• 主な影響ベクトルは6つ:エネルギー価格変動、クラウド/データセンターレジリエンス、ソブリンインフラ加速、サイバーセキュリティ、サプライチェーン(メモリ/半導体/物流)、消費者/企業心理
• ベースケース:中東に限定され、3か月未満。長期シナリオのデータ公表は現時点では見送り
• 世界IT支出:ベースライン2026年約10%成長、下振れ(最大3か月)で約9%成長。弱含みは主にデバイスと裁量案件
• MEA IT支出:2025年1,550億米ドル(世界の4%)。2026年ベースライン約5%成長。下振れで3~4%成長、国別影響は混在
• エネルギーが主要な伝播経路:原油・ガスの変動が運用/投入コストを押し上げ、インフレを強め、資本をタイト化し、プロジェクトを遅らせ得る
• クラウドレジリエンスは必須:マルチAZ/国内冗長化/リスクモデリング拡張。短期は再評価でペース鈍化の可能性
• サイバーセキュリティは相対的にプラスの影響:MDR/SOC、ゼロトラスト、EDR、IAM、CSPM、OTセキュリティ、復旧環境への投資が加速

執筆者(Authors)

• Stephen Minton(Group Vice President, Data & Analytics, IDC)
• Laurie Buczek(GVP, Research, IDC)
• Rick Villars(Group VP, Worldwide Research, IDC)
• Lapo Fioretti(Senior Research Analyst, IDC)
• Andrea Siviero(Senior Research Director, MacroTech, Digital Business, and Future of Work, IDC)
• Thomas Meyer(General Manager and Group Vice President, IDC EMEA, IDC)
• Ashish Nadkarni(GVP/GM, Infrastructure Research, IDC)
• Simon Ellis(Program GVP, IDC)
• Ranjit Rajan(Research Vice President, Worldwide C-Suite Tech Agenda, IDC)
• Harish Dunakhe(Research Director, Software and Cloud, META IDC)
• Jebin George(Senior Research Manager, Software, Cloud, and Industry Transformation, IDC MEA)
• Jean Philippe Bouchard(Vice President, Data & Analytics, IDC)

原文:2026年3月2日公開(英語)|日本語版監修:寄藤 幸治

Yukiharu Yorifuji - Group Vice President and Chief Research Analyst - IDC Japan

Yukiharu Yorifuji is Group Vice President and Chief Research Analyst of IDC Japan. In this role, Yorifuji is responsible for all the research area of IDC Japan, including hardware, software, services, and innovation accelerators. He had been engaged in IT and business services research for more than 12 years as a part of IDC services research team, such as market forecast, competitive analysis, and users' buying behaviors. He now makes a research of enterprises’ organization, talent management, and selection of the partners in Digital Transformation era, and introduces these results via reports and presentations. He has over 30 year experience in the IT industry in various roles including sales, marketing, and market analyst. Prior to joining IDC Japan, Yorifuji worked for a local consulting firm responsible for strategic projects including new business planning, corporate governance, and financial strategy for large companies. He also worked for Fujitsu where he was involved in international sales, marketing, and brand management. He holds a BA from Department of Social Science and MBA from International Corporate Strategy, from Hitotsubashi University, Japan.

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