日本のテクノロジー市場で事業展開するベンダーやサービスプロバイダーにとって、AIインフラが成長するかどうかは既に決着した問題です。問題は、AI向けサーバーやストレージで構成される国内AIインフラ市場が1兆円の壁を超えようとする中で、どれだけ速く、どのような形で、そして誰がその市場を獲得できるかということです。

IDCの最新データと予測は、市場成長について明確な答えを示しています。以下は、このエコシステムのすべてのベンダーが理解すべき戦略的視点です。

1兆円への道筋:市場機会を定義する3つのマイルストーン

IDCは、今後5年間で国内AIインフラ市場が明確かつ力強い成長軌道を描くと予測しています。特に注目すべきマイルストーンは3つあります。

これらは楽観的な予測ではありません。政府の政策、エンタープライズのデジタル化への圧力、ハイパースケーラーのコミットメント、そしてAIの日本経済への不可逆的な統合という構造的な力に裏づけられており、その流れが反転する兆候はありません。

国内AIインフラの現在地:この成長を可能にする土台

これから起きることの規模を理解するには、日本のAIインフラ市場がいかに速く動いてきたかを把握する必要があります。2025年、国内市場は6,700億円に達しました。アクセラレーター搭載サーバーに限れば、2023年から2025年の3年間のCAGRは200%に迫り、世界平均を大きく上回っています。

この成長は偶然ではありません。政府の経済安全保障政策と国内資本の動員が意図的に重なり合った結果です。政府の技術的自立を推進するクラウド関連政策の下、国内資本のサービスプロバイダーや通信キャリアが、日本市場では稀に見るスピードで大規模なAIインフラ整備に乗り出しました。

物理的な変化も目覚ましいものがあります。かつての2U GPUサーバーから、ラックスケールシステムや水冷を前提とした複数ラック構成が標準的になり、データセンター全体がAIワークロードを中心に設計される時代へ向かっています。2025年の6,700億円規模の市場はこの土台の上に成り立っており、2030年の1兆円市場はその次に来るものの上に築かれます。

ベンダーが理解すべき市場の構造的ダイナミクス

2025年の国内AIインフラ市場は、ハイパースケーラーを含むサービスプロバイダーに大きく集中しており、市場支出全体の90.6%を占めています。この数字には、2030年に向けた競争環境を形成する3つのダイナミクスがあります。

・拡大を続けるハイパースケーラー: 投資シェアは2022年の39.8%から2025年には58.9%に急増し、3年間で19ポイントの上昇となりました。ハイパースケーラーのプラットフォームとロードマップへの対応は、この市場における存在感を維持するための前提条件であり続けます。

・戦略的重要性を持つ国内サービスプロバイダー: 政策支援を受けた国内サービスプロバイダーや通信キャリアを含むその他のサービスプロバイダーは、ハイパースケーラーの急拡大にもかかわらず、2025年のシェアを31.6%と維持し、2022年の31.8%からほぼ横ばいです。このセグメントは、純粋な価格競争よりもローカルな信頼、法規制対応、継続的なパートナーシップを重視する、強靭な顧客基盤です。

・次の成長フロンティアとなるエンタープライズの直接投資:現在9.4%という市場シェアながら、エンタープライズのAIインフラ直接投資は2022年比で絶対額が倍以上に拡大しており、成長の萌芽は確実に生まれています。現時点では大多数のエンタープライズが生成AIサービスやSaaSを通じてAIを利用していますが、AIへの野心が深まり、消費から保有へと移行するにつれて直接投資は加速します。今エンタープライズとの関係を構築するベンダーが、この波を最も有利な立場で捉えられます。

セミソブリンAIモデル:日本を特徴づける戦略的アーキテクチャ

2026年4月、マイクロソフトは2026年から2029年にかけて日本へ約1.6兆円を投資する計画を発表しました。これと合わせて、国内パートナー2社が国内で運用するAIインフラをAzureから利用可能にする構想が示されました。国内サービスプロバイダーの保有するAIインフラが、グローバルなハイパースケーラーのサービスレイヤーに接続されます。

IDCはこの構造を「セミソブリンAI」と捉えており、日本のAIインフラ戦略の特徴的なモデルとして急速に確立されつつあります。外国資本のハイパースケーラーへの完全依存でもなく、完全独立の国内AIインフラという過大なコストを強いるものでもない、現実的かつ政治的にも持続可能な折衷案です。

ベンダーにとって、このモデルは制約ではなく構造的な機会です。セミソブリンAIは、インフラ設計、システムインテグレーション、マネージドサービス、コンプライアンス対応、そして日本固有のAIプラットフォーム開発において、豊かで拡大し続ける市場を生み出します。このモデルを深く理解し、その中に意欲的に自社を位置づけるベンダーやインテグレーターが、2030年以降の日本AIインフラ市場の競争環境を定義することになります。

ベンダーへの示唆:動くなら今

国内AIインフラの基盤を築いた政策主導のアプローチは、需要主導の成長段階へと移行しています。もはや、適切なAIインフラが存在するかどうかは中心的な質問にはなりません。問うべきは「誰がエンタープライズのAI活用を、測定可能なビジネス価値を生む形へスケールさせるのか」です。この市場で競争するベンダーには、3つの行動指針が求められます。

エンタープライズのエンゲージメントの加速:現在9.4%というエンタープライズのシェアが、明日の成長ストーリーになります。エンタープライズとの関係構築、日本特有のユースケース開発、ROI実証フレームワークに投資するベンダーが、この10年で最大の需要の波に乗る準備を整えられます。

セミソブリンAIモデルへの適合: 国内のAIインフラ所有者、ハイパースケーラーのサービスレイヤー、政府の政策フレームワークの相互作用を理解することは、持っていたほうが良い背景知識ではありません。この市場で勝つための戦略地図です。

規模だけではない市場理解: 国内市場は持続的な地域へのコミットメント、深い技術的専門性に加え、日本の商習慣にも理解を示すベンダーを評価します。1兆円のチャンスは単なる取引量だけでは捉えられません。

ベンダーシェアや需要構造の詳細はIDC Worldwide Quarterly AI Infrastructure Trackerで継続的に分析しています。

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Shinya Kato - Senior Research Manager, Enterprise Infrastructure, Data & Analytics, - IDC Japan

Shinya Kato is a Senior Research Manager at IDC Japan and is responsible for the data analysis and forecasting team of Japan enterprise infrastructure market. He analyzes the impact of product technology, service offerings, and marketing strategies on enterprise infrastructure market and provides market forecasts, focusing on the domestic enterprise storage systems market. Through understanding technology adoption trends, he also provides insight into emerging devices such as flash, accelerators, and quantum computing. In addition to researching the HPC and AI infrastructure markets, he is also investigating new consumption models such as Hardware-as-a-Service, to help stimulate the market. Prior to joining IDC, he spent more than 10 years at Silicon Graphics, which was later acquired by HPE, where he held various domestic positions in sales, marketing, and business development. He has covered a wide range of businesses, from infrastructure hardware and container-based data center facilities to digital asset management, industrial virtual reality, and software for media & entertainment. He also served as a product manager for enterprise internet security software and appliances at the emerging vendor. He holds a Bachelor of Economics degree from Rikkyo University.

レガシーシステムが稼働し続けるたびに、競合他社が優位を築いていく。日本の2.1兆円規模のITモダナイゼーション市場は待ってくれない—変革を急ぐ企業も同様である。

主要指標

1,304億円 — ITモダナイゼーションサービス市場規模(2025年)

10.2% — 年平均成長率(2025〜2030年)

2,123億円 — 市場規模予測(2030年)

約80% — 依然としてレガシーシステムを稼働させている大企業・中堅企業の割合

なぜ日本は世界を上回るペースで成長しているのか

日本のITサービス市場は2024年から2029年にかけて年平均6.6%成長すると予測されており、世界平均の3.6%のほぼ2倍にあたる。その背景には構造的な要因がある。日本は特有の重いレガシー資産を抱えている——長年にわたる汎用機(メインフレーム)やオフィスコンピュータなどへの投資、複雑な個別開発システム、そしてそれらを長年維持してきた人材がある。今、これら三つに起因する課題が重なり合う中、ITモダナイゼーションが避けられないものになっている。

富士通メインフレームのサポート終了

2022年、富士通はメインフレームおよびUNIXサーバー製品の販売・サポートの2030年前後の終了を発表した。この発表により、1,000社以上の企業が後戻りのできないカウントダウンに入り、日本市場全体でITモダナイゼーションの取り組みが加速している。

AIへの対応という至上命題

AIの活用には、緊密に統合されたデータパイプラインと近代的なビジネスプロセス基盤が前提となる——まさにレガシーシステムはこれらの実現を阻む要素となっている。AI競争力を維持したい企業にとって、ITモダナイゼーションはもはや選択肢ではない。

人口動態の圧力

日本のレガシーシステムを構築・維持してきた世代のエンジニアが退職しつつある。そのノウハウや技術が失われてしまう前に、知識とインフラを移行できる時間は着実に縮まっている。

モダナイゼーションへの三つのアプローチ

IDCはITモダナイゼーションサービスを三つの実行タイプに分類しており、それぞれがサービス企業に異なる意味をもたらす。

リホスト

既存のアプリケーション資産を維持しながら、レガシー以外のプラットフォームへリフト&シフトする。予算や移行期間に制約を抱える企業にとっての入口となる手法である。

リライト

ビジネスロジックを変えずに、レガシーのソースコードを現代的な言語に変換する。管理された変革のための中間的なアプローチである。

リビルド

プロセス、データモデル、アーキテクチャをゼロから再定義する。最も高い価値をもたらす一方、最も複雑なアプローチでもある。

短期的には、リホストはリビルドに次ぐ2番目に大きなセグメントであり、メインフレームなどのEOL(End of Life)に対し早急な対応を要するに企業による支出が市場を牽引している——ただし既に成熟期を迎えており、今後はマイナス成長が予測されている。中長期的な成長機会は、アプリケーションのモダナイゼーション——リライト、リファクタリング、マイクロサービス化やクラウドネイティブアーキテクチャの採用——にある。

国内ITモダナイゼーションサービス市場 支出額予測: 2025年~2030年

Source: IDC Japan, 2/2026

企業がサービスプロバイダーに本当に求めているもの

IDCの調査では、レガシー依存度が相対的に高い大企業・中堅企業は、単なる技術的な実行だけを求めているのではなく、変革のパートナーを求めていることがわかった。セキュリティは基本的な前提として期待される一方、上位のニーズにはビジネスプロセス変革の支援やクラウド活用支援が挙がっている。

需要のシグナルはセクターによっても明確に異なる。

金融サービス

クラウドネイティブなアプリケーション開発能力、すなわち近代的なインフラ上で素早くイノベーションを起こす能力を優先している。

製造・流通

ビジネスプロセスの変革を優先している。基盤となる技術を刷新するだけでなく、業務に効率性とインテリジェンスを組み込むことを重視している。

全セクターを通じて、IDCは企業の期待に一貫した変化を観察している。ビジネス上の成果が主要な購買基準になりつつある。技術的な能力は当然のこととして見なされ、価値の創出が差別化要因となっている。

今、勝てるポジションを築くために

サービス企業にとって、競争上の必要性は明確だ。この市場で勝利する最良のポジションにある企業は、次の三つを実行する。

1. レガシーモダナイゼーションの実績を体系化する

過去の案件は活用されていない資産だ。サービス企業は、達成したビジネス成果——コスト削減、リードタイムの改善、AI対応力の解放——を体系的にまとめた資料を構築し、これを市場への訴求の核にすべきである。

2. AIの時代に向けた業種別のリファレンスアーキテクチャを開発する

汎用的なモダナイゼーションの提案は説得力を失いつつある。企業は自社のセクター、規制環境、そしてAIへの志向に合わせたシステムアーキテクチャと実装ロードマップを求めている。

3. 需要に先行してアプリケーションモダナイゼーション能力に投資する

リホストの波は既にピークに差し掛かりつつある。高い利益率をもたらす機会——リライト、リファクタリング、リビルド——がその後に続いている。クラウドネイティブとマイクロサービスの深い能力を培ったサービス企業こそが、2030年に向け企業から選ばれる存在となる。

IDCが提供するレポートのご紹介

IDCでは、国内ITモダナイゼーション市場の動向を詳細に分析したレポートを発行しています。

本調査レポートは、IDCの国内サービス市場予測における主要な成長促進要因の一つであるレガシーシステム(老朽化・陳腐化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステム)のITモダナイゼーションについて、市場規模の中期予測を示すと共に、国内企業(ITバイヤー)の取り組み動向や、それを支援するサービスベンダーの動向を分析しています。国内ITモダナイゼーションサービス市場予測では、サービスセグメント別、実行タイプ別(リホスト、リライト、リビルド)、システムタイプ別、産業分野別に予測しています。これらの分析から、国内企業のITモダナイゼーション支援におけるニーズ変化や市場機会、サービスベンダーの支援サービスの特徴や戦略を包括的に把握できます。

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Masaru Muramatsu - Senior Research Analyst, Software, Services, and IT Spending, IDC Japan - IDC Japan

Masaru Muramatsu is a senior research analyst, responsible for research and analysis of the Japanese IT services market, including IT consulting, systems integration, business services. Prior to joining IDC, Masaru worked to help digitalize local government in Japan, implementing software as a service (SaaS) in the education and taxation sectors. He also acquired experience in domestic and international sales/marketing with his work for a company that provided materials for electronic devices like smartphones, PCs, and printers. Masaru Muramatsu earned a master’s degree in engineering from Chuo University, Japan.

IDCの最新レポートでは、今回の中東での戦争が2026年に向けてクラウドのレジリエンス、サイバーリスク、サプライチェーン、IT計画にどのような影響を及ぼすかを考察しています。
地政学的危機は、明確な予兆なく発生することがほとんどです。そして一度発生すれば、デジタルインフラ、サプライチェーン、テクノロジー運用に即座に大きな負荷がかかります。
今回の中東での戦争は、現代のデジタル経済、そして混乱下でも事業継続を担うCIOにとって、構造的なストレステストとなっています。
過去の紛争と異なり、現在の企業IT環境はクラウドインフラ、サブスクリプション型サービス、そしてグローバルに相互接続されたサプライチェーンに大きく依存しています。そのため、影響は局所的にとどまらず、地域・システム・パートナーを横断して急速に拡大します。
CIOにとっての課題は、単なるリスク管理ではありません。変化する状況に適応しながら事業運営を維持し続けることです。

IDC の見解:From Conflict to Continuity: How CIOs Can Respond to Disruption from the Middle East War.

なぜ今回の危機はCIOにとってこれまでと異なるのか

企業ITは、従来の内部完結型環境から、高度に分散されたエコシステムへと移行しています。

現在の企業は以下に依存しています:

  • クラウドプロバイダーおよびプラットフォームサービス
  • 分散型インフラおよび運用
  • テクノロジー供給および提供におけるグローバルサプライチェーン

この依存構造は、新たなリスクを生み出しています。

地域の不安定化は、以下に影響を与えます:

  • アプリケーションの可用性およびパフォーマンス
  • ハードウェア導入スケジュール
  • サイバー攻撃の増加
  • インフラおよびエネルギーコスト

これらの圧力は、既存のデジタル戦略の前提をすでに揺るがしています。

CIOにとっての優先事項は、自社のリスク露出(エクスポージャー)を把握し、それが業務にどう影響するかを理解することです。

エクスポージャーマッピングとシナリオプランニングから始める

最初のステップは、どこにリスクが集中しているかを特定することです。

CIOは以下の4つの観点で依存関係を整理すべきです:

  • 影響地域に所在する従業員・契約社員
  • 影響市場に関連する顧客および収益源
  • 混乱が発生している物流ルートやサプライヤー
  • 地域インフラに依存するアプリケーション、データ、運用

このマッピングが意思決定の基盤となります。

その上で、シナリオプランニングにより複数の展開に備えることが可能になります。

IDCは、CIOが検討すべき2つのシナリオを提示しています:

  • 地域の不安定状態が長期化するケース
  • エネルギーやサイバー領域に波及する広範なエスカレーション

シナリオごとに、レジリエンス、セキュリティ、投資の優先順位は変化します。

CIOが今優先すべきこと

CIOは以下の5つを直ちに見直す必要があります:

1. クラウドとインフラのレジリエンス再評価

単一リージョンや特定プロバイダーへの依存度を確認し、フェイルオーバー体制のギャップを特定する。

2. サイバーセキュリティの強化

脅威の増加を前提に、検知・対応・復旧能力を強化する。

3. テクノロジーサプライチェーンの多様化

供給のボトルネックを特定し、単一供給源への依存を低減する。

4. データ主権とコンプライアンスの見直し

地政学的緊張はデータローカライゼーションや規制強化を加速させる。

5. 人材・業務継続計画の整備

リモートワークや代替コミュニケーション手段を含め、業務継続を確保する。

これらは新しい課題ではありませんが、「同時に、かつ迅速に」対応する必要性が高まっています。

IDC アジアウェビナー(英語):Asia Pacific IT Spending Outlook 2026: Where to Win Amid Market Volatility

混乱下でのリーダーシップ

レジリエンスは技術課題であると同時に、リーダーシップの課題でもあります。

CIOは不確実性の中で明確な方向性を示す必要があります。成功する組織は、チームが目的を理解し、迅速に行動できる組織です。

有効なリーダーシップ行動には以下が含まれます:

  • 重要システム保護への明確なフォーカス
  • 意思決定の迅速化
  • 課題の分解と優先順位付け
  • 環境の簡素化と強化の機会特定

こうした局面では、技術的負債や運用の非効率、レジリエンスの欠如が顕在化します。

優れた組織は、混乱を「停止」ではなく「行動の契機」として捉えます。

混乱からオペレーショナル・レディネスへ

現在の状況は、地政学とデジタル運用の関係が変化していることを示しています。

CIOはもはや単発のインシデントに備えるのではなく、複数領域に同時影響が及ぶ前提で対応を進めなくてはなりません。

そのためには、継続的なレジリエンス強化が必要です:

  • 依存関係とリスクの可視化の継続
  • 複数シナリオを前提とした計画
  • 日常業務へのレジリエンスの組み込み

この能力を構築できた組織は、不確実性の中でもパフォーマンスを維持できます。

シナリオフレームワークの活用

リスクの把握は出発点に過ぎません。重要なのは、それを意思決定に落とし込むことです。

IDCのレポートでは以下について詳述しています:

  • IT支出やAI投資への影響
  • インフラ、サイバーセキュリティ、人材継続性への考慮点
  • 状況変化を把握するためのリスク指標

執筆者(Authors)

Rick Villars – Group VP, Worldwide Research – IDC

原文:2026年3月23日公開(英語)|日本語版監修:寄藤 幸治

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長年にわたり、国内IT市場の成長は、大企業、公共部門の既存システムのモダナイゼーション、そして消費者のPC、スマートフォンといったデバイス更新サイクルによって牽引されてきました。また、国内においてデジタルトランスフォーメーション(DX)関連支出は主に大企業が中心というのが、これまでの一般的な見方でした。
しかし、その前提を見直す必要があります。


IDCは、2026年の国内IT市場規模が28兆4,189億円に達し、前年比3.3%増、2024年から2029年までのCAGRは6.4%になると予測しています。大企業は引き続き市場を主導し、その構成比は2025年の53.9%から2029年には56.0%へと拡大する見込みです。日本のIT市場拡大において、大企業の影響力は依然として中核を成しています。
しかし、構造的に重要なのは、中堅企業の同時的な存在感の高まりです。
従業員数100~999名の中堅企業は、IT支出全体に占める割合を2025年の19.8%から2029年には21.2%へと拡大する見込みです。さらに2026年には、中堅企業のIT支出(PCを除く)は前年比9.5%増と予測されており、大企業の8.7%増を上回ります。

2026年以降、日本のIT市場は「デュアルエンジン構造」によって特徴づけられることになります。すなわち、大企業による持続的な拡大と、中堅企業におけるデジタル化の加速です。

なぜ中堅企業はIT投資を加速させるのか

1. 生産性向上と人材コストの問題が経営課題に

国内の人手不足は、もはやマクロ経済の問題ではありません。とりわけ中堅企業にとっては、日々の事業運営に直結する制約要因となっています。

大企業も同様の課題を抱えていますが、強力なブランド力、人材採用体制、成熟したデジタル基盤を持ち、すでに自動化やデータ統合、生産性向上を目的にしたデジタルプラットフォームに多額の支出を行っています。

一方で中堅企業は、人材面やデジタル成熟度に課題を抱えている場合が多く、給与水準やブランド力での人材採用競争も容易ではありません。2026年に向けて人材不足がさらに深刻化する中、デジタル化は戦略的選択肢ではなく、事業継続の前提条件となります。

さらに、大企業や官公庁/地方自治体からのデジタル化対応の要請がサプライチェーンを通じて波及しています。デジタル化に遅れた中堅企業は、取引機会を失うリスクに直面します。

2026年以降、生産性向上を目的としたデジタル化は構造的な潮流となります。

2. 中堅企業には外部ベンダーのデジタル化支援が必要

大企業は内製化やIT子会社の設立、ハイパースケーラーや先端企業との直接連携を進めており、自社内でのITリソースを高度化させています。

しかし中堅企業は異なる制約下にあります。

多くの中堅企業は社内IT人材が限られており、大規模なシステムモダナイゼーションプロジェクトを自力で推進する能力を十分に持っていません。2026年にデジタル化プロジェクトが本格実行段階に入るにつれ、ITベンダーやSIerへの依存度は高まります。

中堅企業が求めるのは:

・エンドツーエンドの導入支援
・ユースケースベースのパッケージソリューション
・運用面まで含めたスケーラビリティ
・AIおよびクラウド活用に関する専門知識

ただし、この市場に対応するには、提供モデルの構造的な見直しが必要です。案件規模は比較的小さく、予算も限定的です。より軽量で成果志向のアプローチが求められます。

3. 中堅・地域系ベンダーの構造的優位性

国内IT市場の成長の重心が中堅企業に移る中、ITベンダー自身のポジショニングも重要になります。

大手および準大手ベンダーは大企業における大規模プロジェクトに不可欠ですが、中堅企業には異なるデリバリーモデルが求められます。より現場密着型で、地域性を踏まえた、柔軟な導入を重視するアプローチです。

中堅・地域系SIerは、この環境において構造的な優位性を持つ可能性があります。

規模、コスト構造、組織体制が中堅企業のニーズに適合しやすく、より密接な関係性を築きやすいからです。大規模プロジェクトに最適化された大手ベンダーとは異なり、スピード、アプローチの優位性、柔軟な導入の容易性に強みを持つプレイヤーは、中堅企業のデジタル化の拡大局面で成長機会を獲得しやすいでしょう。

4. クラウドが変革のハードルを下げる

大企業はレガシーシステムや高度にカスタマイズされたアーキテクチャにより、モダナイゼーションに時間とコストを要するケースが多くあります。

中堅企業は、相対的にシステム構造が単純であり、クラウド移行の障壁が低い傾向にあります。

IaaSやクラウドネイティブ基盤の拡大により、以下が可能になります:

・新システムの迅速な導入
・初期投資の抑制
・スケーラブルなIT基盤
・AI関連機能との容易な統合

2026年には、AIモデル、データ基盤、エージェント型AIプラットフォームを含むAI関連支出が急拡大する見込みです。クラウド環境は、中堅企業が大規模なシステム再構築プロジェクトを行わずにこれらを導入することを可能にします。

クラウドは既存システムと新しいシステムとの間の摩擦を減らします。迅速な成果を求める中堅企業にとって、これは特に重要な要素です。

2026年以降:成長は集中へ

国内IT市場は分散しているのではなく、多くの企業、公的部門において拡大傾向で収斂しています。

大企業は引き続き市場シェアを拡大し、中堅企業は構造的な成長エンジンを持つことで国内IT市場での存在感を強めます。

次の成長フェーズは:

・大企業の継続的なモダナイゼーション
・中堅企業のデジタル化の加速
・大企業、中堅企業の両セグメントでのAI活用拡大
・クラウド基盤への依存度の上昇

を軸に展開されます。

ITベンダーにとっての示唆は明確です。

今後の成長は、大企業による超大型プロジェクトだけではありません。システムモダナイゼーション、デジタル化プロジェクトに着手する中堅企業へのビジネス規模の拡大が鍵となります。

国内IT市場におけるデュアルエンジンでの市場拡大の構造を早期に把握し、提供ソリューション、パートナー戦略、デリバリー体制を中堅市場に適応させたベンダーこそが、日本のIT市場における次の持続的な成長フェーズを取り込むことができるとみています。

図表: 国内IT市場(PCを除く)前年比成長率、並びにIT支出割合比較:大企業、中堅企業

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Hitoshi Ichimura - Senior Research Manager, Software, Services, and IT Spending, IDC Japan - IDC Japan

Hitoshi Ichimura is responsible for the market analysis of overall Japan IT spending, based in Tokyo. In this role, he is responsible for the market analysis of IT Spending research by vertical, company size and region. His main area of research involves IT Spending market forecast and trends for the Japan financial industry local area and SMB segment. Ichimura is also involved in various custom research projects in the area.